本文へスキップ

ブログ ・ 水質の基礎

硬度GH・KHとpH — 緩衝力の仕組みと水質が動く前兆

公開 ・ 内容確認 ・ 読了目安 12分

執筆: 友田陽大魚まもり開発者(水質モニタリングIoT)

「GHとKHは何が違うのか」——結論から言うと、GH(総硬度)はカルシウムとマグネシウムの量、KH(炭酸塩硬度)は酸を中和してpHの変動を和らげる緩衝材の量です。そして「pHがどうしても下がる」「軟水にしたらpHが不安定になった」という悩みの多くは、このKH——緩衝力——で説明がつきます。この記事では、GHとKHの役割の違いから、KHが低いほどpHが動きやすくなる仕組み、硬度とTDS(EC)のつながりまでを、水質を測る側の視点で整理します。

GHとKHは別物 — 総硬度と緩衝力

アクアリウムで「硬度」と言うとき、実際には性質の違う2つの数値を指しています。GH(General Hardness / 総硬度)は、水に溶けているカルシウムとマグネシウムの量です。エビや貝の殻、魚の浸透圧調整に関わり、いわば「ミネラルの濃さ」を表します。一方のKH(Carbonate Hardness / 炭酸塩硬度)は、炭酸水素イオン(重炭酸)などの量で、水に加わった酸を中和してpHの変動を和らげる「緩衝材」の量にあたります。

名前が似ていて単位(dH / dKH や mg/L CaCO3)も共通なので混同されがちですが、役割はまったく別です。GHが高くてもKHが低い水、その逆の水もあり得ます。「硬度を下げたい」という相談も、殻や浸透圧のためにGHを下げたいのか、pHを動かしたくてKHを触りたいのかで、やることが変わります。まずはこの2つを分けて考えるのが出発点です。

GHとKHの役割の違い
項目GH(総硬度)KH(炭酸塩硬度)
表すものカルシウム・マグネシウムの総量酸を中和する緩衝材(重炭酸など)の量
主に効く相手エビ・貝の殻、魚の浸透圧調整pHの安定度(動きやすさ)
下げる/上げる目的軟水種の水づくり、ミネラルの濃さ調整pHの動きやすさの調整、CO2添加水槽の管理
低いと起きやすいこと殻や成長に影響が出ることがあるpHが動きやすくなり、じわじわ酸性側へ振れやすい

硬度の単位と区分 — dHとmg/L CaCO3

硬度は複数の単位で表記されるため、まず換算を押さえておくと混乱しません。ドイツ硬度(dH、KHでは dKH)と、mg/L CaCO3(炭酸カルシウム換算のppm)が主に使われます。換算はおおむね 1dGH ≒ 1dKH ≒ 約17.8ppm CaCO3 で、テスト薬の表記が違っても同じ土俵に乗せられます。

硬度の単位換算(おおよその目安)
単位換算備考
1 dGH≒ 約17.8 mg/L CaCO3総硬度のドイツ硬度1度あたり
1 dKH≒ 約17.8 mg/L CaCO3炭酸塩硬度のドイツ硬度1度あたり
mg/L CaCO3= ppm CaCO3炭酸カルシウム換算での濃度表記

水そのものの硬さの区分としては、USGS(米国地質調査所)が水の硬度をmg/L CaCO3で4段階に分けています。これは飲料水・環境水の一般的な区分で、水道水の性質を把握する出発点として使えます。

水の硬度区分(USGS・mg/L CaCO3)
区分硬度(mg/L CaCO3)換算の目安(dH)
軟水0〜60約0〜3.4
中程度の硬水61〜120約3.4〜6.7
硬水121〜180約6.8〜10.1
非常に硬い水180超約10.1超

KHがpHの動きやすさを決める — 緩衝という仕組み

ここが本題です。「pHがどうしても下がる」「軟水にしたらpHが安定しない」という現象の中心にあるのがKHです。水槽の中では、魚の呼吸や餌の分解、硝化などで日々わずかに酸が生まれ、水を酸性側へ押していきます。KH(重炭酸などの緩衝材)は、この酸を中和して受け止める役割を持ちます。緩衝材が十分あるうちは、酸が加わってもpHはあまり動きません。

問題は、その緩衝材が有限だということです。KHが低い(緩衝材が薄い)水では、少量の酸でも中和しきれず、pHが大きく動きやすくなります。同じ量の酸が加わっても、KHが高い水では小さな変化で済み、KHが極端に低い水では大きく振れる——これが「軟水ほどpHが不安定」と言われる正体です。

KHとpHの動きやすさ(緩衝の概念モデル)同量の酸を加えたときのpH低下幅が、KH0dKHで約1.8、2dKHで約0.8、8dKHで約0.18と、KHが高いほど小さくなる1本の減衰曲線。00.51.01.52.002468同一酸添加でのpH低下幅(ΔpH)KH(dKH)
KHとpHの動きやすさ(緩衝の概念モデル)のデータ
系列KH(dKH)同一酸添加でのpH低下幅(ΔpH)
pH低下幅01.8
pH低下幅11.2
pH低下幅20.8
pH低下幅40.4
pH低下幅60.25
pH低下幅80.18
KHとpHの動きやすさ(緩衝の概念モデル)同量の酸を加えたときのpH低下幅が、KH0dKHで約1.8、2dKHで約0.8、8dKHで約0.18と、KHが高いほど小さくなる1本の減衰曲線。同量の酸を加えたときのpH低下幅をKH別に示す概念モデルです。実測ではなく、緩衝の傾向を図示したものです。実際の水槽では加わる酸の量やCO2の状態で値は変わり、この曲線そのものを正確な予測として使うものではありません。

このグラフはあくまで概念モデルですが、伝えたいのは形です。KHが0に近い領域では、わずかな酸でもpHが大きく落ちる(曲線の左端が高い)。一方でKHが数dKHもあれば、同じ酸に対するpHの動きはずっと小さくなり、右へ行くほど平らに寝ていきます。だからこそ、pHの絶対値ばかり気にするより「この水はどれくらい動きやすい水か」をKHで捉えておくと、崩れる場面が読めるようになります。

低KHでpHが急落する場面

現場でとくに注意したいのが、KHがごく低い水で緩衝材が使い尽くされる場面です。重炭酸が酸に消費され続けてKHがほぼ底をつくと、そこから先はわずかな酸でpHが一気に酸性側へ振れやすくなります。これは長期の無換水や、ソイル・流木由来の酸が効き続ける水槽で起きやすく、じわじわ進んだ末にある日大きく動く、という形をとりがちです。対処の基本は、KHを使い切る前に換水などで緩衝材を戻すこと。ここでは「pHの値」より「KHの残り」を見るほうが本質に近い、と整理できます。

CO2・KH・pHは連動する

水草水槽でCO2を添加している場合、CO2・KH・pHは互いに連動します。CO2が水に溶けると炭酸となって水を酸性側へ動かすため、同じKHでもCO2量が増えればpHは下がります。逆に消灯後などCO2が抜けるとpHは戻る方向に動きます。このため、CO2添加水槽ではpHが一日の中で上下するのが普通で、その振れ幅はCO2の出し入れとKHの組み合わせで決まります。「pHが動く=異常」ではなく、CO2運用に伴う自然な日内変動と、緩衝力の低下による一方向のドリフトを分けて見ることが大切です。

pHが下がる/軟水が不安定になる — KHで読み解く

ここまでを踏まえて、よくある悩みをKHの視点で読み解きます。「pHが下がる原因が分からない」「軟水にしたらpHが安定しない」——どちらも、緩衝材であるKHの多寡と消費で説明できることが多いです。

症状とKHから読める背景(一般的な傾向)
症状KHから読める背景見るべきポイント
pHがじわじわ下がり続ける生体・餌・硝化で生じる酸がKHを消費し、緩衝力が痩せているKHの残量と、換水でどれだけ戻るか
軟水化したらpHが不安定軟水化でKHも下がり、少量の酸でpHが動きやすい水になっているGHだけでなくKHも下げすぎていないか
pHが一日で上下するCO2添加や光合成でCO2量が日内変動している(KH一定でも起きる)測定した時刻とCO2の出し入れのタイミング

硬度とTDS(EC)のつながり — 測れるもので代理する

ここで測定の話に接続します。GH・KHは専用の試薬で測るのが基本ですが、水に溶けたイオンの「総量」という観点では、TDS(EC)とゆるやかにつながっています。GHやKHを構成するカルシウム・マグネシウム・重炭酸はいずれもイオンなので、硬度が高い水はTDS(EC)も高くなる傾向があります。

TDS(EC)は総イオン量の代理

TDSメーターが実際に測っているのはEC(電気伝導度)で、そこに係数を掛けてppm表示にしています。ECは水に溶けたイオンの総量に反応するため、硬度・塩類・その他のイオンをすべて足し合わせた「総イオン量の目安」になります。したがって、TDS(EC)はGHとKHの内訳までは分けられませんが、硬度を含む総イオン量がどちらへ動いているかの代理指標としては使えます。

この「役割の割り切り」が実務では効きます。低KHの水槽で緩衝力が痩せていくと、換水を怠るほど総イオン量のバランスも変わっていきます。TDS(EC)がじわじわ下がる傾きは、必ずしもKH低下と一対一ではありませんが、換水や添加をしていないのに総イオン量が動いているという「いつもと違う」の合図にはなります。絶対値でGHやKHを言い当てるのではなく、同じ機器で同じ水槽の傾きを追い、平常から外れた瞬間に気づく——これがTDS(EC)の現実的な使い方です。

よくある質問

GHとKH、水質管理でどちらを優先して見るべきですか?

目的によります。エビや貝の殻、軟水種の浸透圧を気にするならGH、pHの安定度や急な酸性化を気にするならKHを見ます。「pHがよく動く・下がる」という悩みが中心なら、まず見るべきはKH(緩衝力)です。両者は連動しがちですが、必ず一致はしないので分けて捉えます。

硬度を下げるにはどうすればよいですか?

RO水や軟水化した水で元水を希釈するのが一般的です。ただしGHを下げるとKHも一緒に下がりやすく、pHが動きやすい水になります。GHを下げるのが目的でも、KHをどこまで残すかは別に設計し、緩衝力を切らさない運用(換水間隔・量)とセットで考えるのが安定のコツです。

KHはどれくらいあればpHが動きにくくなりますか?

一律の正解はありませんが、一般に数dKH程度の緩衝力があれば、日々の酸に対するpHの動きはかなり小さくなる傾向があります。逆にKHが1dKHを大きく下回る領域では、少量の酸でpHが急に振れやすくなります。飼う種の目安に合わせつつ、緩衝力を使い切らない換水管理を前提にするのが実務的です。

TDS(EC)メーターでGHやKHは測れますか?

内訳としては測れません。TDS(EC)は総イオン量の目安で、GH・KH・塩類・硝酸塩などをすべて足し合わせた値です。硬度の内訳を知りたいときはGH/KH専用試薬を使い、TDS(EC)は総量の傾き(いつもと違う動き)を追う役割として使い分けます。

CO2を添加していないのにpHが下がるのはなぜですか?

生体の呼吸・餌の分解・硝化などで日々わずかに酸が生じ、それがKH(緩衝材)を少しずつ消費するためです。KHが痩せてくると同じ酸でもpHが動きやすくなり、じわじわ酸性側へドリフトします。換水で緩衝力を戻すのが基本の対処になります。

参考文献

  1. USGS Water Science School: Hardness of Water硬度のCaCO3換算と軟水/硬水区分(0〜60/61〜120/121〜180/180超 mg/L)の参照元
  2. Aquarium Science: KH, pH, CO2 RelationshipsKH-pH-CO2の関係と 1dKH≒約17.8ppm CaCO3 換算の参照元
  3. Fondriest Environmental: pHpHの対数スケール・緩衝(buffering)の一般解説
  4. Fondriest Environmental: Conductivity, Salinity & TDS溶けたイオンの総量とEC(電気伝導度)・TDS換算の一般解説(硬度→総イオン量→ECの接続)
  5. アクアリウムの硬度(GH/KH)の一般解説GH(総硬度)とKH(炭酸塩硬度)の役割の違い・dHとppm換算の一般的な整理
  6. 炭酸緩衝系(重炭酸によるpH緩衝)の一般解説重炭酸イオンが酸を中和しpH変動を和らげる緩衝の仕組みの一般的な解説